2018.02.09 American Songbook コンサート at ジャズアットリンカーンセンター アペルルーム
photo: Kevin Yatarola
「アメリカン・ソングブック」は、アメリカの作曲家とパフォーマーを讃えるために、リンカーンセンターが1998年以来恒例で開催しているコンサートだ。リンカーンセンターの中でも最も客席との一体感が感じられる会場に、今日最も輝いているボーカルを迎えて、カントリーからロックまで、ブルーグラスからジャズまで、キャバレーからブロードウェイまで幅広いスタイルでその才能を発揮する機会を与えている。
http://www.aboutlincolncenter.org/programs/program-american-songbook
「今日最も輝いているボーカル」ですってよ!奥さん!
今回がアーロンのアメリカンソングブックデビュー。3ヶ月も前のリハーサルの時期から高揚感のあるポストをしていた。
2月9日 当日のリハーサルの写真
窓から見える夜景が夢のように美しい。
アーロンはグレーの三つ揃いのスーツ。フォーマルな服がとても似合う。髪はまた伸ばしているのかな。後ろになでつけて、すそだけちょっぴりはねてる。これはおしゃれなのかそれとも…?
セットリストは前回のウルフトラップとほぼ同じ。伴奏がピアノ+ドラム+ベース+バイオリンの編曲で、とても華やかだった。みんなの息が合っていて、アーロンも楽しんで歌っていた。バイオリンとアーロンの声はとても相性がいい、というのが今回の発見だ。
Live In Living Color
オープニングにぴったりのナンバー、キャッチミーイフユーキャンのLive In Living Colorで幕を開ける。ちょっぴり生意気なしぐさで小気味よい歌いっぷり。ああ、これがフランクなのねー、とうっとり。
Fight the Dragon
次のFight the Dragonは父親が幼い息子を勇気づける歌で、いつも僕の父を思い出す、とMCするところ「今日は両親が来てくれているんだ」って紹介して拍手喝采。
"Fight the Dragon" photo:Yu_at_JPN(Original)
Desert Island Top 5 Break Ups
この曲を歌う前に、舞台でコーラスパートを歌ってくれる観客を募る。昨年のPOP-ROCK系コンサートでよく歌われていた曲だから、練習していけばアーロンと一緒に舞台に立つのも夢じゃないかも😆。今回も女性ファンが2人。あんまりよくわかってなかったらしかったけれど、アーロンは「大丈夫大丈夫」ってコーラス部分も一緒に歌ってあげて、最後のセリフだけは上手に決まるようにしてあげていた。やさしい。
Somebody To Love
そしてそのまま"Somebody to Love"へ。この曲は昨年パラマウントではじめて歌ったときにも圧倒されたけど、さらに声が伸びやかになってパワーアップしていた。最初の ♪Somebody to Love〜!でもう歓声と拍手が湧いた。
私の前の席の年配のご夫婦は、夫が深く頷きながら、そして妻がその背中を優しくさすりながら聴き入っていて、お二人の思い出の曲なのかな〜なんて思ったり。
間奏では前の曲で舞台に上がったファンの二人とダンスも。ちょっとうらやましいぞ! この曲が終わると二人が舞台を降りるんだけど、ほんのちょっとの階段なのにちゃんと手を添えに行くアーロン。でも紳士的と言うより、どちらかといえば男の子が「ボクがエスコートしますっ」てがんばってる感じですごくかわいらしいw(30過ぎの男性にホント失礼でごめん)
I Missed The Mountain
次はがらりと雰囲気を変えて、Next to Noemalから"I Missed The Mountain". これはアーロンが演じたゲイブの母、ダイアナの歌。「公演中、僕は3階からいつもこれを見ていました」と語って歌い始める。ダイアナは双極性障害を抑えてノーマルでいられるように大量の薬を処方される。感情が消えて一見完璧だが、失った生き生きとした感情の高まり(これを山に喩えている)を懐かしむ。
ここでのアーロンは、昔手にしていた確かな感情を今はどうしても掴むことができずに、何もリアルに感じられないもどかしさや切なさを声にも表情にも表して、観ていて思わず涙が出る。
Thunder Road
続いてブルーススプリングスティーンの"Thunder Road"。バイオリンの美しい前奏が流れる間、アーロンはハイチェアに腰掛け、遠い過去を見つめるようにして後ろにそびえる摩天楼を見上げている。いや、彼が見つめているのは未来かもしれない。変化のない眠ったような生活を捨て、約束の地を目指して雷の鳴り響く道へと彼女をいざなう歌。
全面ガラス張りのステージの後ろは、遠くまで続くNYの摩天楼の窓の明かりがまるで星の海のようで、青い光の中で見上げるアーロンの横顔が絵のように美しかったのは忘れられない。
原曲はスプリングスティーンのしゃがれ声がワイルドなロックソングだが、アーロンのつややかな声とバイオリンとピアノ、そしてブライアンペリーのコーラスが、洗練されたノスタルジーを感じさせる曲になっている。こんな風にcome take my handなんて言われたら、それはもちろん手を取って行きますともw。
Take Me Or Leave Me ~ One Song Glory ~ Che Gelida Manina
「次の曲は…」とアーロンが言うとブライアンが"Take Me Or Leave Me"を弾き始めて客席から歓声が上がる。アーロンは笑いながら最初の数節だけ振りをつけて歌ってくれて、そこからはミュージカル人生の始まりになったRENTのツアーの話に。いまアーロンのミュージックディレクターでありピアノとコーラスをしてくれているブライアン・ペリーに見いだされて、大学在学中にRENTのツアーに参加できることになったらしい。
アーロンは「おかげで学校をドロップアウトしてミュージカルにはまったよ」と笑い、RENTの曲から、と言って"One Song Glory"を歌う。
さらりと1番だけ歌うと、「RENTはオペラのラ・ボエームがベースになっている」と話し始める。この後ロジャーがミミと出会う"Light My Candle"のシーンがあるが、オペラではロジャーはロドルフォという詩人でミミに出会う"Che Gelida Manina"という歌がある、と、その歌の解説をしてくれる。 このサイトを読んで行ったのでだいたいわかったけど、イタリア語の歌詞の解説を英語でされてもね!😅
アーロンはピアノをバックにこの詩を歌うように英語で朗読。合間に「僕も誰かにこんなこと言ってみたいよ」なんて言って笑いを取る。 詩の内容を紹介し終わると「誰かがあなたにこんな風に語りかけるのを想像して?彼はまさに彼女に出会って恋に落ちたんだ。これはそんな歌」と言って、イタリア語で"Che gelida manina"を歌い始める。
巻き舌もスムーズでびっくり。そういえばアーロン、大学に入った時は声楽専攻だった。 途中からミュージカル専攻に変えたんだよね。
アーロンのロドルフォは彼女に語りかける時はロマンチックに、自分を語る時には雄々しく、とても感情豊か。
photo: American Songbook 2018 facebook
このときのバイオリンもまた素晴らしくて、曲のラストはアーロンの歌の余韻を引きとって天まで届けるような美しさ。万雷の拍手が湧いた。
「歌うのが怖いと思うことはめったにないけど、オペラ、しかもイタリア語で、はちょっと緊張したね」といって笑った。
Maria
「先日はNYフィルと共演する素晴らしい機会に恵まれた。ウェストサイドストーリーは11年生(高校2年生)のときにやったんだけど、 それが僕にとって初めて歌のレッスンをうけた時だった。その夜は本当にとても大変だったよ。17,8歳の僕はその17年後にまさかNYフィルとその曲を歌うとは想像もしていなかった。次の曲は、2000年のミドルタウン高校のプロダクションでとても一生懸命にやった曲で、かなりよかったと思います」
そしてあの"Maria"が始まる。待ってました的な拍手が湧いて、これはもうコンサートの定番になりそう。出会ったばかりのマリアにキスしたことを思い出してにこにこ笑うのもかわいらしいし、途中の歌詞が"Maria"だけなのに、(ああ運命のひとに出会ったんだね…)と感じさせるあのアーロンの声。 生で聴くと空気の震えまで感じられる。ラストの澄み渡る一声も最高に美しい。
I Could Be In Love With Someone Like You
長く続いた拍手が終わると、そのまま"I Could Be In Love With Someone Like You" 。さっきの天使みたいな風情から急に地上の悪ガキ風w。始終ご機嫌な様子で時折「ハハッ」と笑い声を上げていた。生リバーダンスも観たよ! そしてちょっと顔をゆがめていたずらっぽいウインクをしてチュッとキスを飛ばしていた。
Member introductions
曲が終わると感謝いっぱいにメンバー紹介。「最高のピアノ、ボーカルのブライアン・ペリー、完璧なドラムのジャレッド・ショニング、粋なベースのマイケル・ブランコ、」といつものメンバーを紹介し、「そしてもうひとりのブライアン、バイオリンのブライアン・ヘルナンデス・ルッチ。なぜ彼がここにいるかを語らなければ。僕らのバイオリニストが急病で来られなくなってしまったんだけど、心配ない、大丈夫、とブライアンは文字通り今日助けに入ってすべての曲をマスターしてくれたんだよ」
観客は「おおっ!」とびっくりの声をあげて大拍手。 こういうことをちゃんと言ってあげるアーロンが好きですよ。
Sandy ~ Heart And Soul
次の曲は、グリースライブ!で歌った"Sandy"と古いポップスの"Heart And Soul"のマッシュアップ。彼女を怒らせてしまったあとのせつない恋心を歌う"Sandy"の途中から、身も心も君の虜なんだよというメロメロソング"Heart And Soul"になって、ご年配の方たちが「ワッハッハッ」と大受け。調べたら1937年頃に作られた歌だった。アーロンよく知ってるなぁ。カントリー歌手になりたかったというパパの影響かしらん。 古い曲だけど現代的で飽きさせない歌い方もアーロンのお家芸のひとつ。
Rewrite the Stars
歌い終わると、「今日は友人のローレン・オルレッドが来てくれて、ザ・グレイテスト・ショーマンから“Rewrite the Stars”を歌います」と言って舞台袖まで彼女をエスコートしに行く。
ローレン・オルレッドは、グレイテスト・ショーマンに出てくる歌姫ジェニー・リンド(レベッカ・ファーガソン)の歌う"Never Enough"の吹替で脚光を浴びている歌手だ。
“Rewrite the Stars”はフィリップ・カーライルとアン・ウィーラーのデュエットで、二人はお互いに想い合っている。しかしフィリップは二人に未来があると思っている一方で、アンはそれは無理だと思っている。
アーロン(フィリップ)は彼女を見つめて歌いかけるのに、ローレン(アン)は決して彼を見ない。悲しげに目を閉じ、毅然と顎をあげて立っている。彼を不幸にしたくないという決意が見えて、とても美しい。
アーロンはそのかたくなな心を解きほぐすように歌う。So why don't we rewrite the stars?のところでは窓の外の星の海に向かって腕を広げてローレンに訴えかけた。この会場だからこそできた演出が、強く心に残る。
ローレン(アン)が歌うパートでは、アーロン(フィリップ)は最初は彼女が受け入れてくれると信じているような笑顔で彼女を見つめていたけれど、But when we go outside You're gonna wake up and see that it was hopeless after allあたりで、そんな風に思っていたんだ、とはっとしたような顔をして、それでも、ほほえみながら目を閉じて少しうつむいて彼女の言葉に耳を傾け、目を開けて、僕を信じて、という優しい笑顔でデュエットの部分に入った。
photo: Kevin Yatarola
photo: American Songbook 2018 facebook
別れた二人が時を経て再び出会うような曲の並びだな、と思った。
そしてアーロンが上着を脱いでベスト姿で戻ってくる。かわいい。(語彙とは)
Beautiful City
ヘアスプレーでブロードウェイに職を得て引っ越してきてからずっとニューヨークに住んでいて、この街が好きだ、というような話をしてから、GodSpellの“Beautiful City” 。瓦礫の中から自分たちの手で、美しい都市を作ろう、という静かだけれど希望のこもった美しい歌だ。
世の中に理不尽なことはたくさんあるけれど、僕たちは変えていくことができる力を持っている、と勇気づけられる。アーロンの声には、ひとりひとりの心に火を灯すようなことができる不思議な力があるね。
photo: Kevin Yatarola
Being Alive
そして最後の曲。
「昨年はたくさんのコンサートをして、舞台にもでることができてとても楽しかった。僕は何年も舞台を離れて他のメディアにでていたけれど、ステージに戻ることにしたのはそれが本当に特別なショー、スティーブン・ソンドハイムの『カンパニー』だったからです。
バーリントンステージでは素晴らしい経験をしました。この歌は、ショーの最後の歌です。「カンパニー」は、35歳の誕生日を迎えた男に、結婚している友人たちみんなが、結婚して落ち着くべきだ、相手を見つけろというんです。でも彼は長年彼らを見ていてそれは恐ろしいことだと思っています。
最終的に、本当に最後の歌の一番最後で、ソンドハイムは書いたんです。彼がその恐ろしいことをすべて受け取ると、それらが本当は彼が自分自身を開放するためのすばらしいことだということに気づくんです。これがBeing Aliveです」 …と言っていたと思う…。
"Being Alive"は、コンサート用バージョンではなく、他の役者のセリフが入った(全部ブライアンペリー担当w)舞台バージョン。この方が、ボビーの変化や歌詞の本当の意味がわかる感じがしてうれしい。
最初はアーロンボビーはイライラと「君らは結婚して何を手に入れたんだ!」といって、自分が見てきたことをあげつらう。恐れと表裏一体の怒り。それに対して友人たちは優しく、君は何かをつかみかけてる、もっと続けて、と励ます。
そしてボビーはついにBeing Aliveという言葉にたどり着く。
それまで自分が閉ざしていたものに気づいた時のボビーの表情や、そこからまるで生まれ変わる過程を見るような名演。ラストを歌い上げると、神々しいほどの光に包まれる。
割れるような拍手を受けてアーロンに戻ると、掌底で涙をぬぐって「ありがとう」と言って去って行った。
Bring Him Home ~ I Dreamed a Dream ~ Do You Hear The People Sing
鳴り止まぬ拍手の中ステージに戻ってきて、アンコールはおなじみのレミゼメドレー。"Bring Him Home" と"I Dreamed a Dream"はおふざけで、キーが高い、とか言いながら数小節歌う。BHHはイディナメンゼル?のものまねもしていた。
そして、「いままでのは冗談だったけど、次は99%みんなが知っている歌だから僕と一緒に歌ってくれる?よし、いこう!」と言って"Do You Hear The People Sing"。Will you join in our crusade?からright to be free!までは「ここは僕のパートだ!」ってみんなを黙らせてひとりでかっこよく歌ったり。
free〜!の声が映画のあのシーンをちょっと思い起こさせる。そして再び合唱。でも、いつも思うんだけど、この歌でアーロンがするアクションって歌詞に合わせて胸たたいたり太鼓たたいたり畑耕したり?ちょっとおもしろい。普通に歌ってくれていいのよ…?
そして今日の極めつけは、足をハイチェアにひょいと載せて、「これがフラッグだ!僕のソックス!」って赤いソックスを指さしてにこにこしてた。…かわいいです。みんな爆笑。それでもTomorrow coooome!と歌い終えて、ハッピーな気持ちでコンサートが終わった。
劇場情報
2018.02.09(金) 8:00pm
American Songbook シリーズ コンサート
The Appel Room, Jazz at Lincoln Center, ニューヨーク、ニューヨーク州
全席指定 483席
2017.10.31発表。リンカーンセンターメンバー発売中、一般発売11/13 より。$75〜$145
2017.11.13 会員先行のみでSold Out
2018.1.20 不定期に16:00ころに、追加(リターン)チケット4〜5席ずつ発売。
2018.2.2 TodayTixで$25のラッシュチケット発売と発表。事前登録の上、2/9 10:00より限定数
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