2016.02.12,13 Defying Gravity コンサート in シドニー
"Defying Gravity"は、ウィキッド、ピピンなどのミュージカルの作詞作曲、ポカホンタス、ノートルダムの鐘、プリンス・オブ・エジプト、魔法にかけられてなどの映画音楽の作曲を手がけた、スティーブン・シュワルツ(Stephen Schwartz)の業績を称えたコンサート。
2015年から世界各地で"Do You Hear The People Sing?"コンサートを成功させてきたEnda Markeyのプロデュース。スティーブン・シュワルツ本人も関わっており、とてもクオリティの高いコンサートだった。
セットリストやアーロンのステージの様子などを当時作成したサイトから転載。
SETLIST
太字はアーロンが(パートやダンスだけでも)出演した曲
ACT ONE
Magic To Do (Pippin) The Company
Corner of the Sky (Pippin) David Harris
Lion Tamer (The magic show) Joanna Ampil
Lost in the Wilderness (Children of Eden) Aaron Tveit
Stranger to the Rain (Children of Eden) Helen Dellimore
Just Around The Riverbend (Pocahontas) Sutton Foster
Colors of the Wind (Pocahontas) Joanna Ampil
Cold Enough to Snow (from the movie Life With Mikey) Aaron Tveit
Toxic People (from the album Uncharted Territory) Joanna Ampil Helen Dellimore David Harris Aaron Tveit
When You Believe (Prince of Egypt) Sutton Foster
Beautiful City (Godspell) David Harris
Making Good/The Wizard &I (Wicked) Sutton Foster, Helen Dellimore, Joanna Ampil
Populer (Wicked) Helen Dellimore
In Whatever Time We Have / As Long As You Are Mine (Children of Eden/Wicked) Sutton Foster, Aaron Tveit
Morning glow (Pippin) The Company
ACT TWO
Prepare Ye (Godspell) The Company
It’s An Art (Working) Helen Dellimore
All For The Best (Godspell) David Harris Aaron Tveit
Out There (The Hunchback of Nortre Dame:ノートルダムの鐘) Aaron Tveit
That’s How You Know (Enchanted:魔法にかけられて) Joanna Ampil, David Harris
I’m not That Girl (Wicked) Sutton Foster
Endless Delights (The Baker’s Wife) Helen Dellimore, David Harris
No Time At All (Pippin) Betty Buckley
Chanson (The Baker’s Wife) Betty Buckley
Meadowlark (The Baker’s Wife) Betty Buckley
Proud Lady (The Baker’s Wife) Aaron Tveit
Defying Gravity (Wicked) Sutton Foster
For Good (Wicked) The Company
Day By Day (Godspell) The Company
ACT ONE
Magic To Do(ミュージカル「Pippin」より)
いよいよ開幕。
Defying Gravityをモチーフにした華やかで力強い前奏のあとMagic To Doの妖艶な前奏が始まる。
下手から5人が現れ、背中を向けて舞台の中央の階段に並ぶ。
一段目はジョアンナ・アンピルとヘレン・デリモア、二段目はデヴィッド・ハリス、アーロン・トヴェイト。三段目には、サットン・フォスター。そしてひとりずつ振り向いて歌い出す。そのたびに大きな拍手と歓声が湧く。
アーロンはフォーマルスーツにボウタイのいでたち。
5人が階段から降り舞台に並び、素晴らしいハーモニーを響かせる。
♪ We got Magic to do Just for you
あなたのための魔法があるよー繰り返されるフレーズで、なにかすばらしいことが始まるぞという期待に満ちた歌だ。
歌の終わりにまた階段に戻っていき、最後にみんなで振り向いてフィニッシュ。
Lost in the Wilderness (ミュージカル「Children Of Eden」より)
ジョアンナがかわいらしい「ライオン・テイマー」を歌い終え、次の曲は旧約聖書の創世記をベースにしたミュージカルから、カインが失われた楽園を見つけに行こうとする歌だと紹介する。
これがアーロンの初ソロ曲。
一般的には、カインは弟のアベルだけが神に愛されるのを妬んで弟を殺し、神に烙印を押されて追放された、人類最初の殺人者として有名な人物だ。しかしシュワルツは、彼を聡明な求道者であるにもかかわらず報われない人物として描いているようだ。ウィキッドのエルファバのように。
アーロン=カインは斜に構えて厳しい表情で歌い出す。彼は知ってしまったのだ。両親が神のもとにとどまることもできたのに、楽園を追われる方を選んだことを。その結果、自分までもが神に見放され、こんな荒れ野でさまよっている。
片手を胸に当て、もう片手で奥を指さし、「彼らは僕の権利まで含めて楽園を手放してしまったんだ」と訴える。
そして、戒律に縛られた荒れ野の生活に何の疑問も持たない弟に、目を覚ませ、と言わんばかりに歌いかける。
カインは太陽を目指して飛ぶ鷲のように、自由に、そしてどんな苦労をも厭わずに、神の御下を目指して行くつもりなのだ。
「最後にはきっと神様は僕たちを見つけてくださる」と天を見上げ確信を持って歌い上げた顔に、金色の照明が降り注ぐ。神の祝福に包まれて黄金の雨にうたれているように見える。カインのその後の運命を思うと、この真摯さがいっそう悲劇的だ。
Cold Enough to Snow(映画「Life with Mikey」より)
サットンが、シュワルツは映画音楽においてもすばらしい功績を残している、と話している所に、アーロンが上手からグラスを片手に物憂げな表情で入ってくる。サットンが”Hi Aaron”と声をかけ、にっこり笑って去っていく。アーロンは小さなため息を付いてグラスを傾ける。どうやら失恋してしまったようだ。下手のピアノのところまで行ってグラスを置き、歌い始める。
♪夏はどこへいってしまったんだ。まるで雪になりそうな寒さだ。
真夏のシドニーが、冬のニューヨークに変わる。アーロンは窓から下の通りを眺めるようなしぐさで歌う。彼女といたときの温かな思い出を甘く、
それを失った今の寒さを噛みしめるように。
♪ラジオでは凍結はしないなんて言ってるけど、何がわかると言うんだ。
君が行ってしまったのも見ていないのに。
もう太陽も輝かない。雪になるような寒さだ。
ラジオにまで絡んでたっぷりと失恋に浸る様子もかわいらしい。
Toxic People(アルバム「Uncharted Territory」より)
Cold Enough to Snowを歌い終えた傷心のアーロンがピアノに体を預けてグラスを飲み干し、空いたグラスをピアノの向こうにすべらせると、上手からヘレンが現れる。アーロンが誰だ?という感じでHello?と声をかけるが、悪女っぽい笑みを浮かべて立っているだけ。その顔を認めて、ああまずい奴に会った、みたいに顔をしかめてOh, Jesusと呟くアーロン。そしてヘレンが歌い出す。それに答えるように歌うアーロンにはさっきのようなナイーブな風情はなく、むしろとんがった感じ。
タイトルは直訳すると「有害な人たち」。歌詞が見つからないのでニュアンスしかわからないが、悪い友だちが元気づけに来たみたいな感じだろうか。デヴィッドとジョアンナも加わりワルっぽくかっこいいのだが、肝心の歌詞が聞き取れないんだようぅ(T_T)。誰か歌詞を見つけた方は教えてください。
ラストはアーロンが舌をちらっとペコちゃん出しして中指を立て、ふぁっくゆーな感じにすごんで決める。やられた。かわいい。
In Whatever Time We Have(ミュージカル「Children Of Eden」より)
/ As Long As You’re Mine(ミュージカル「ウィキッド」より)
In Whatever Time We Haveは「Children Of Eden」の第2幕、ノアの箱舟にまつわる物語。ツイッターのお友だちにあらすじを教えていただいた。ノアの末息子ヤペテはカインの子孫のヨナに恋をするが、ノアは二人を認めず箱舟に乗せない。世界の終わりの大洪水を前に、ヨナはヤペテに別れを告げるが、こっそりヤペテが船に乗せる。
アーロン(ヤペテ)がサットン(ヨナ)に語りかけるように歌う。どんな時が来ても、決して離れはしない、と。
I will hold you in the darkでふたりは固く手を繋ぐ。この時のアーロンの手の差し出し方が、泣ける。普通の「お手をどうぞ」な差し出し方ではなくて、手の甲を正面に向けた「僕についてきて」という差し出し方なのだ。この握り方だと、何が起きてもすぐに彼女を後ろにかばって戦えるんだよ…。
明日この世の終わりが来ようとも、僕たちは一緒にいよう、と歌うと、間奏がお馴染みのAs Long As You’re Mineに移行する。
サットン・フォスターはその声も存在感もとてもドラマチックだ。ヨナとエルファバ、世間から呪われる少女の気高さと一途な愛をあますところなく表現して、もう聴き入るほかない。無粋な言い方で恐縮だが、トニー賞主演女優賞を2度受賞するとはこういうことか、と目を(耳を)拓かれる思いがする。
アーロン=フィエロは真剣な表情で、彼女の言葉に目を見張ったり、そうだと言わんばかりに口元を引き締めたりして彼女を見つめている。youtubeで聴き慣れたはずの曲も、目の前で聴くとアーロンの表情と声の多彩さにうっとりする。♪ Under your spell でフィエロがおまじないの仕草をし、♪ Say there's no future For us as a pairでエルファバが小さく首をふる。そして♪ And know I'll be here Holding you でふたりは再び手を繋ぐ。
ラストは再びIn Whatever Time We Haveに戻り、決して振り返らない、どんな時が来ても一緒にいよう、と強く、そして優しく余韻を残した。
Morning Glow(ミュージカル「Pippin」より)
生きる意味を探す旅を続ける若き王子ピピンは、父王を殺して王座についた、という前説をアーロン自身が語る。
闇の中で、悲痛な顔をしてじっと手を見つめ、なぜ手の震えが止まらない、と歌い出す。
なぜ大地はこんなに静かなのだ。
やらねばならないことはたくさんある。
僕はやれるだろう。
しかし、彼は眉根を寄せ目を閉じて天を仰ぎ、自分の言葉を全く信じていない表情をしている。
曲調が穏やかに変わる。夜が明けて、朝焼けmorning glowがひろがっていく。その光を受けてピピンの顔に生気がやどり、彼は目を開く。
最初はかすかな光だけれど
変化の風が吹き、古きは去り新しいもので満たされる
人々がコーラスに加わる。
その声に力を得て、ピピンは本物の王へと変化していく。
僕たちは輝く新しい日をつくることができる
闇の亡霊は過去に消え去り、ついに新しい朝が来たんだ!
と朗々と宣言すると、オープニングで聞き慣れたあのフレーズが。
ー lt’s a Magic to do Just for... you これがあなたのための魔法よ。
こんなところで繋がってひとつになるなんて!
と感動のうちに第一幕が終了。
ほんとうに、アーロンの演技はすごいよ!
ACT TWO
Prepare Ye(ミュージカル「Godspell」より)
第二部のはじまり。まだ幕間のざわめきが残っている中、ステージ中央の階段の上にアーロンが現れる。
スポットが当たり、アカペラで朗々と歌い始める。
ボウタイは取り、首元を少し開けて第一部よりリラックスした雰囲気だ。
歌詞は Prepare Ye the way of the Lord(主の道を整えよ)のみ。“Godspell”で洗者ヨハネが使徒を呼び集める歌だ。
アーロンの声に引き寄せられるように、ざわついていた聴衆の気持ちもひとつになる。
そこに4人が加わり、華やかに2幕がはじまる。
It’s An Art (Workingより)
2曲目はヘレンがメインの曲。黒いエプロンを身につけ、カフェのウェイトレスだろうか。「こんな仕事も考えようによってはバレリーナみたい」とばかりに優雅にトレイを持ってお客の間を泳ぐように歩くが、お客(デヴィッドとアーロン)はそんな姿には目もくれず「お嬢さん、早くしてくれ!」「お勘定!」と叫ぶ。
アーロンは後半の残り1/3あたりで登場。パントマイムでしかめ面をして新聞を読んだり、忙しそうに時計を見てレシートをぶんぶん振ってお勘定を催促したり、余裕のないビジネスマン風。ラストはヘレンがマリリンモンローのように身体をくねらせて両手を高く上げ、デヴィッドとアーロンが両側から膝をついてプロポーズのようなポーズを決める。
All For The Best(ミュージカル「Godspell」より)
It’s An Artを歌い終えたヘレンがバーイと手を振って去ると、アーロンとデヴィッドが二人でトークタイム。
聞き取りができないので適当な訳ですが、シドニーに来てからのアーロンはアイスコーヒーを頼むと思ってたものと全然違うものが出てくるのに困ってる。笑いが起きたのでこれは定番の文化ギャップらしい。調べたらオーストラリアでアイスコーヒーと言うとクリームたっぷり&上にアイスが乗ってるのが普通らしい。コーヒースムージーのアイスフロートっぽい感じ。なんとか「普通の」アイスコーヒーを飲みたいアーロン、コールドコーヒーだよ、ブラックの。ミルク無しの。それがアメリカーノなの!(超訳)と注文してるらしいww。デヴィッドが「君はコーヒースノッブだからな」と言い、またしばらく何やら言い合っている。
そのうちに、なんとかはやる価値はあるぞ、と言ってデヴィッドが歌い出す。憮然とするアーロンの周りをおどけて踊ってみせたりする。つられてアーロンもぎこちなく踊り出す。機械仕掛けのおもちゃの兵隊さんみたいな滑稽な踊り。
ふたりで歌い踊っているとどんどんテンポが早くなる。
巻きが入ったダンスを踊り終えて、アーロンとデヴィッドは息を切らせて背中合わせに身をかがめ、手を膝についてつかれた〜!というジェスチャー。デヴィッドがアーロンの背中をよくやった、というふうにポンポンとたたいて「でもダンスはお手のものだろう?」と言って笑わせる。数日前にオーストラリアでもグリース:ライブ!が放送されたからね。
Out There(映画「ノートルダムの鐘」より)
デヴィッドとアーロンが交互に、スティーヴン・シュワルツとアラン・メンケンの奇跡のペアが、ディズニー映画の数々の名曲を生み出した、という前説をした後、それでは、とデヴィッドが歌い出すのを待って、ふたりで突っ立ったまま沈黙。
あれ?と顔を見合わせ、デヴィッドがどうぞ~とアーロンに譲って去っていく。アーロンは苦笑して、前奏が始まる。なんなのその小芝居www。
Out Thereは「ノートルダムの鐘」で醜さのあまり鐘楼に閉じ込められて育ったせむしのカジモドが、外に出て自由に暮らしたい、と願う歌。眉目秀麗なアーロンには合わないんじゃ?なんて心配は必要ない。カジモドの優しさ、魂の純粋さを表すのにアーロンの声はぴったりだ。まだ見ぬ広い世界への心の震えを繊細に、そして胸に秘めていた大きな希望を伸びやかに歌う。ラストのハイノート(というのか?)は圧巻!
Proud Lady(ミュージカル「The Baker's Wife」より)
前の曲「メドウラーク」はベティ・バックリーの最後の曲でもあり、毎回ショーストッパー。大きな拍手が鳴り響く中、アーロンが下手に静かに現れ、スポットライトが当たる。同じく”The Baker’s Wife” からの「プラウド レディ」。これがアーロンの最後のソロ曲だ。
「俺は恋をしている!恋をしている!」と高らかに歌いながら舞台の中央へ。パン屋の女性に恋をしたのだ。「次にパンを買いに行く時には、赤いシャツの前を胸毛が少し見えるくらいに開けて」と斜に構えてシャツの前をめくって胸をチラ見せしたり「バッグにパンを詰めて温まったら彼女にこうして見せて」と腰をいかがわしく回したりと、アーロンにしては珍しいセックスアピールに会場がヾ(*≧∀≦)ノ゙となった。
闘牛士のような曲調に変わって、猪突猛進に手に入れる気まんまんに歌いあげる。彼女との情事を夢想し「彼女の身体を夢に見る。もし彼女がノーマルなら俺の身体を夢に見てる」と自信満々でまた笑わせる。
要するに熱烈な恋に落ちた伊達男の、あの女を絶対ものにするぜ的な脳天気な内容なのだが、アーロンの声が晴れやかで何の疑いもなく一筋に彼女を求めているので、まるでそれが崇高な使命のように聞こえてくる。
最後のほうではじめて、相手が他の男の妻であることを明かしてちょっと笑いを取るが、すぐに「俺の全人生をかけた真実の愛を勝ち取るんだ」と伸びやかに、誇らしく、理屈を超えた圧倒的な響きで歌いあげ、ソロのラストにふさわしく締めくくった。
でも退場するときにはだけてた胸元を片手でかき集めてイヤン見ないで的な表情をしたのでものすごくかわいい。
この後のサットン・フォスターのコンサートタイトル曲、”Defying Gravity”も毎回ショーストッパーなので、この2曲に挟まれる難しい場面で決して劣らず観客の気持ちを高めるすばらしいパフォーマンスだった。
For Good(ミュージカル「ウィキッド」より)
圧巻のDefying Gravityを歌ったサットンへの鳴り止まないスタンディング・オベーションの中、ヘレンが下手から登場。
グリンダとしてエルファバに寄り添い、歌い始める。グリンダの2節目はデヴィッドが歌う。
答えるようにサットンがエルファバのパートを歌うと、上手から出てきたジョアンナがそれを引き継ぐ。
そして中央から出てきたアーロンが ♪ Like a ship blown from its mooring By a wind off the seaからの美しい一節を歌う。やっぱりアーロンはエルフィーなのね。
このコンサートに出会えてよかったなぁ、と終りをしみじみと迎える。
Day By Day (ミュージカル「Godspell」より)
最後にスティーブン・シュワルツご本人が登場。ビデオレクチャーだけかと思っていた聴衆はびっくりして総立ちになり、稀代の作詞・作曲家に敬意を込めて拍手喝采。シュワルツはピアノの前に座り、弾き語りで歌い始める。いい声。出演者たちはピアノの周りに集まってコーラス。
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